2019.06.10
北緯24度の島旅・フィナーレ。宮古島の泡盛に纏わる感動の旅路と島を間違えた男たち。①<隣の島の空港篇>
先月の石垣島、先々週の台湾一周旅に続き、北緯24度の島を巡る酒と食を巡る旅。その締めくくりに、今回訪れたのが「宮古島」だ。
10時半の太陽は、何の下調べもしないまま早朝成田発の翼に飛び乗ったエアバスA320の銀色の機体と、広い滑走路を眩しく照らしていた。
「・・・何かがおかしい。」
真新しい、まるで近代美術館のように洒落た空港のロビーを抜け、東京より高く青い空を見上げながら私はふと思った。
「どうやら、ここ、宮古島じゃない・・・。」
赤坂見附駅で丸ノ内線と銀座線を乗り間違えるのならばまだわかる。しかし、飛行機を乗り間違えることなどありようがない。では、何故俺はここにいるんだ・・・?印刷したバウチャーを鞄の奥から引っ張り出す。
次の瞬間、私は肺の空気が空っぽになるくらい、大きな溜息をついた。
「宮古」行き(下地島)。
つまり、私は「宮古島空港」ではなく、「下地島空港」に降り立ったということだ。
聞けば宮古島までは長い橋で繋がっていてバスが運行しているという。だから、宮古島まで行くことは容易なようだ。問題は、昨夜ご機嫌に一杯やりながらBMWのレンタカーを「宮古島空港」に予約していたということだった。私は、慌ててレンタカー会社の連絡先を探した。
4コール目で電話が繋がるなり、私は間髪入れず、「空港、間違えました。」と侘びを入れる。
スタッフの5秒ほどの沈黙が、針のように耳を刺すようだった。こんな間抜けなミスをしたのは、恐らくJETSTAR社がこの春、下地島空港に就航して以来「初の快挙」だろう。電話口の彼の頭の中に「???」が駆け巡っていることが、容易に想像できた。
幸い、宮古島空港直行のバスがあったのが不幸中の幸いだ。電話を切り、私はなるべく平静さを装いながらカウンターでチケットを買い、それに飛び乗った。
今更ながら、google MAPで島の地図を確認する。隣接した伊良部島、そして宮古島の大きさと位置を頭に叩き込む。綺麗な蝶が、そんな間抜けな男を見るためかバスの窓に止まり、やがて満足してどこかへ飛んで行った。
バスは、下地島、伊良部島を経由し、琉球グラスのように青く透き通る海のグラデーションを車窓いっぱいに長い橋を渡る。調べてみればこの「伊良部大橋」は、2015年に開通したばかりということだ。これは現在、日本で一番長い橋ということらしい。
バスが宮古島に到達する頃には、先ほどまでの焦りと軽い自己嫌悪は、海辺に描いた砂の文字のように消えていた。美しい海は、心を癒すのかもしれない。レンタカー会社のスタッフの「・・・・あはは。大丈夫ですよ!」という言葉の残響音は、わずかに耳の奥に残っていた。
予定を1時間ほど遅れて宮古島空港の送迎ゲートに着く。別の便の乗客とほぼ同時時刻に合流と相成った為、結果、送迎上大きな迷惑をかけずには済んだようだった。
キーを渡され、苦笑いしながらそそくさと車に荷物を投げ入れる。1世代前の少しハンドルの思いBMWのエンジンをふかし、「ざわわ、ざわわ」と揺れるさとうきび畑を走り抜ける。バスの中で調べた、空港から15分程で辿り着ける人気の宮古そば屋に入って、三枚肉の宮古そばをすすった。
店の外は、正面にさとうきび畑と、のどかな地平線が広がっていた。右手にコンクリートの比較的大きな建物があり、その建物の壁に、どこかの酒場で見た覚えのある3文字が書かれていて、私は驚いた。
「多良川」・・・行こうと思ってた泡盛の酒蔵ではないか。
空港を間違えるドタバタから、まさかのこの運びの良い展開・・・
「間違いなく良い旅になるだろう。」なんとなく、私にはそんな気がした。
続く