2016.07.22
海鮮礼賛。15の魚食archive。/中編。6〜10
海鮮礼賛。15の魚食archive。/前編。1〜5からの続き
アオリイカ
★佐賀 呼子 and 長崎 平戸
佐賀や福岡の知人らは「透明」なイカの存在を知って育ったが為、その有り難さにあまり気づいていない節が有る。それがどれほど幸せなことか。彼らは東京に来て思い知ることになる。「東京に透明なイカは無いんですね。」と。呼子の朝市に行くと、おばあさんが生きた状態の透明なイカを路上に並べて売っている。佐賀・呼子など玄界灘界隈の名物イカと言えばケンサキイカ(或は赤いか)と呼ばれるヤリイカ科のイカが代表だ。秋が旬のケンサキイカは勿論、個人的には比較的オフシーズンにも食べられる「アオリイカ」が好きだ。最近では東京や大きな都市でも透明な活イカを食わせる店が増えた。「東京で地方のものを食べるよりご当地で食べるものが一番美味いんだ」と普段吹聴しつつも、飛行機にも新幹線にも乗らず近場で美味いものを、美味い状態で食べられるというのは本当に有り難いことだ。ちなみにこのアオリイカ。「エギ」というエビの形をした日本古来の「ルアー」を使ったフィッシングが近年ブームで、東京湾でもしばしば釣れる。新鮮なサバとアオリイカを釣るために海釣りを始めたものの、実はいまだアオリイカが釣れた試しがない。
ぶどうえび
★青森 八戸市
八 戸にある友人の酒蔵に年に一度は遊びに行く。蔵に行き、蔵人と会うのが目的の半分。そして美味いものを食べ、美味い酒を呑むのが目的のもう半分。すでにこの街が「地元」と思えるくらい、本当に美味しい ものを数え切らないほど頂いてきた。東京には、恐らく殆ど流通しない「ぶどうエビ」というエビがある。東北沿岸や北海道の市場で、時々見かけることがある。その名の通りまるでデラウェアのような濃いルビーレッドのエビだ。味覚は甘エビやボタンエビに 近いかもしれない。が、そのまったりとした強い甘みは格別。漁獲量も少ないようで市場でも結構値が張るが、ついついあの色を見ると財布のひもが緩んでしまう。 八戸の色の宝庫「八食センター」で見かけたときは是非買って、醤油とワサビをお店で分けてもらってパクリとその場で味わって頂きたい。
アナゴ刺し
★千葉県 富津岬
千 葉でラジオの仕事の帰りにぐるっと車で東京湾を一周して帰ろうと思った際にたまたま立ち寄った富津岬で見つけたアナゴ料理専門店。色々頂いた中でアナゴ刺 しという品書きにはじめ驚いた。「アナゴなんて刺身で食べられるのか?!」驚きながら注文すると透き通った身がまるでフグのように美味そうである。味 はというと、これも引き締まった甘い身に、実に品の良い脂が適度に乗っていて思わず唸ってしまう。富津と言えば、海岸から西を見ると手に届きそうな距離に故郷の横浜の灯台が見える。いはやは「灯台下暗し」とはよく言ったものだ。
めひかり から揚げ
★福島市 いわき 小名浜産
2011 年の震災の年の夏。六魂祭という東北6県の祭りを巡った。悲劇と困難に見舞われたあの年の東北は、復興への思いと東北を盛り上げようとする熱気が漲り、異様な盛り上がりを見せて胸が熱くなったのを覚えている。特に福島は、原発問題で復興においては何処よりも複雑な問題を抱える中、喧噪の街中にある居酒屋で食べためひかりのあの ジューシーな味は忘れられない。「好きな刺身は何か」と聞かれると正直多すぎて答えに困ってしまうが、「好きな魚の揚げ物は何か」と聞かれれば迷いも無く「富山のゲンゲか小名浜のめひかりだ」。と答えられる。福島の魚介類の多くは、厳しい放射能汚染検査をクリアするまでにまだまだ時間がかかるだろう。そして国や漁協の判断でOKになっても、福島産品に懸念を抱く方も多い、風評被害は免れない。しそれはそれで仕方がないとは思う。ただ、めひかりをはじめ、本当に福島の魚は美味い。個人的には皆さんに是非味わって頂きたい。
マグロ漬け
★日本国内 美味い寿司店全般
ひと手間が加わることで純粋に「旨い魚」というカテゴリーからは逸脱してしまうが、ここは敢えて。「づけ」がある店無い店、美味い店不味い店。寿司屋も様々だ。素材が良く、仕込みがしっかりしている「づけ」は本当に美味い。海外の人にも是非知っていただきたい。本マグロという魚は冷凍してから食べる方がむしろスタンダードであり美味いので、いわゆる「旬」に極端にシビアではなくオールシーズン頂けるのは嬉しい所だ。そのマグロを丁寧な醤油をベースとしたダシで浸けることによって従来の赤身が「別モノ」に変貌する。「卵の善し悪しで寿司屋の善し悪しが分かる」というツウの蘊蓄を良く聞くが、「だし巻き」という食べ物にあまり魅力を感じない為どうも自分にはピンと来ない。代りと言ってはなんだけれど「イカやマグロのづけの善し悪しで寿司屋の善し悪しが分かる」。というのはどうだろう。あながち外れではないと思うのだが。