2016.07.05
海鮮礼賛。15の魚食archive。/前編。1〜5
刺身こそ人生だ。
そう。刺身が無かったら、もしかしたら旅などしていなかったかもしれない。自分が20代の頃はまだ都内でもなかなか今のようには旨い刺身がなかなか食べられなかった。(もちろん今でも地方でしか食べられないものも星の数程あるが)
何処に旅をした時だったか忘れてしまったが、友人達と訪れたとある地方で美味い魚を口にしたとき、思わず口を突いて出た「舌から鱗」という言葉を美味い魚に出会う度に思い出す。「目から鱗」を無意識にもじったそれは、自分の想像しうる美味の概念を遥かに越えてきた味覚に対する最高の賛辞だったのだろう。これはうっかり板さんの前で言わなくて良かった。「まさかお造りに鱗がついていたか?」と心配させてしまう。
とにかく港町の小さな食堂で。粉雪降りしきる北の歓楽街で。四季折々、各地の味に出会う為。20年近く続けたローカル列車旅への情熱の動機が一体何だったのかと言えば、恐らく美味いものに出会う為という理由は半分近くを占めていたに違いない。00
味の記憶を辿り、順不同、店名はなるべく特定せず、ものによっては地方も限定せず、各地で味わった、絶品海鮮を今回15ノミネート。何故15か?・・むしろ美味いモノが10というキリの良い数に収まっていたらかえって不自然である。日本の、そして海外の皆様の舌にも是非あの味、あの感覚を共感していただきたく、且つ自らのアーカイブ・備忘録としてここに記したいと思う。
のどぐろ 造り
★福井 小浜市 店名割愛
「のどぐろ」と言えばいつの間にか日本を代表する高級魚としての名がメディアを中心に広く知られてしまったので、最近では地方でもびっくりするくらいの値段の店が多い(卸値もきっと相当なのだろうけど)。生で良し、煮て良し焼いて良しの元々高級魚では有ったが、アノ頃はそれでもまだ手頃だったなあと、2008年の晦日から大晦日にかけて、雪原の中を走るローカル線に乗って若狭湾の街・小浜に向かった日を思い出す。肌を突きさす冷たい風が吹き抜ける寂れた商店街を歩き、小さな和食屋で食べた身の締まった白身。厳しく寒い日本海を過ごす為に、魚が蓄えたその甘美で贅沢な脂の味に、ローカル線旅の疲れなど一瞬にして忘れるのであった。
かわはぎ刺し(キモ付)
★ 日本各地 地域割愛
正直、カワハギは何処で食べても美味い。そして何処の海でも獲れる魚なので地域を限定せずに新鮮なものが揚がれば、ついつい頼みたくなってしまう。夏の終わり〜冬にかけては特に美味い。定番カワハギの肝醤油で頂く白身はもはや酒飲みの間では垂涎の逸品。ふぐのように淡白な白身を頂きつつ、クリーミーな肝をべろんと一口で頂くのは何とも贅沢だ。朝獲れの新鮮なカワハギが魚屋に並んでいたら、結構簡単に裁ける魚なので、是非魚屋さんに裁き方を教えて貰って食して頂きたい。腹に包丁を入れ、肝がパンパンなら「アタリ」である。
クロシビカマス 刺身
★神奈川県 三崎
殆どの方が聞いたことも見たことも無い魚なのではないかと思う。「カマス」とつくが、タチウオが銀色に光る「太刀」だとすれば、クロシビカマスは青黒く光る短刀のような風貌をしている。三崎などでは「ダツ」という名で呼ばれることもあるが、いわゆる「ダツ」と世間で名で通るサヨリのお化けのような魚とはまた異なる。とにかくこの妖しく不思議な風貌の魚の刺身が実に美味い。柔らかく、ほんのり桜色の肉厚な身を噛むと、マグロのトロともアジの類とも違う、どことなくバターのようなニュアンスを感じさせるジューシーな脂が舌の上にじわっと広がる。
岩ガキ
★鳥取 鳥取市 店名割愛
昔懐かしい「厚底ブーツ」のような大きな厚い殻を纏った岩ガキを真夏の富山で食べた。非常に高価だったので仲間4人で2つの牡蠣を分けたのだが、あまりにも美味いので結局人数分頼んだ覚えが有る。トロリと流れ出る乳液が入っている個体ががアタリ。タラの白子のようなクリーミーな旨みに「これが岩ガキというものか・・・」ととにかく皆で感動したものである。以来色々な所で岩ガキを食べたが、多分2度くらいしかこの「トロリ」に遭遇していない。一夏に、一度きりで良いから、あの味を毎年舌で確かめてみたいものだ。富山に限らず北陸山陰に美味い岩ガキ有り。
花咲ガニ
★釧路の魚市場
日本中のカニを食べ尽くしたわけではないので偉そうなことは言えないが、茹でたカニの中で今迄最も美味いと思ったのは釧路の市場で買って食べた花咲ガニだった。カニはやはり茹で上げてすぐのものが最も美味い。その時食べた花咲カニは決して茹で上げすぐではなかった。けれどあの味のしっかりしたジューシーさにはその後も出会えていない。カニの味に濃厚という言葉が果たして合うのか分からないけれど、他に例える言葉が見つからない位、とにかく味が濃い。北海道と言えばまずはカニということで今やアジア各地から観光客が押し寄せているが、札幌の市場があまりにも観光商業化しているので最近はちょっと足が遠のいてしまったけど、広い北海道、色々な地方の市場にわざわざ美味いカニに会いに行く価値はあるのだなと思う。