2016.02.12
歴史・地震・絆。台湾の懐。 HAYASHI百貨店。~台南
「林百貨店」。そのデパートは、昭和の始めに開業した。
日本ではない。
遥か南、台湾島の中南部に位置する街・台南に。
日本統治時代、街の目抜き通りに誕生したこの建物は、
関東大震災の教訓を生かした、見るからに重厚な鉄筋コンクリート造りだ。
やがて時は移り、日本の敗戦によりこの百貨店は廃業。
政府機関の事務施設として戦後暫くの間は活用されたものの、
1980年代にその役割も終え、朽ち果てた廃屋となった。
◆
「台湾・ルネッサンス」という言葉が妥当ではないかと思う。
台湾の人は、古きよきものを大切にし、蘇らせることに非常に長けている。
昨年末に旅した際に泊まった台北の古ぼけたビルは、まるで宇宙ステーションのような
面白いカプセルホテルに化けていて驚いた。
台湾中部の都市・台中にある、日本統治時代には眼科だった大きな建物は、
息を呑むほどに美しい洋菓子店に姿を変え、今、台湾を代表する観光スポットにもなっている。
店の名は、「宮原眼科」。(宮原眼科の記事は追々載せる予定なので、まずはその名前で検索して頂きたい)
「統治時代」という歴史を過去に葬り去り、「新しく、懐かしい」ものとしてしまう。
当時の日本人の名前を店名に冠するなんて。
戦後の国民党政治の良し悪しを差し引いて考えても、台湾の人はどうしてここまで懐が深いのだろう。
この「林」百貨店も、建物が2010年に史跡認定されて以降復興の機運が高まり、
2014年6月14日。実に、81年の時を経て、再び開業の運びとなった。
実は、創立者・日本の実業家「林 方一」氏は不運にも1932年の最初の開業を目前に
当初の開業を見ることなく他界している。
華々しい開業から、
屋上に残る、生々しい米軍機空襲の跡。
そして一度は朽ち、再び2014年に息を吹き返したそのデパートの姿を、
彼は空の上から、どんな気持ちで見守っていたのだろう。
彼が見下ろす屋上には、(笠木と呼ばれる上部の柱は外れてしまっているものの)
当時の佇まいの鳥居があり、
そして、美味いおでんと、日本の酒を呑める粋な「居酒屋」まである。
浸みた大根をアテに、ぐいと一杯酒を呷ると、思わず胸が熱くなる。
各フロアにはハイクオリティな台湾各地と、台南の産品。
「林デパート」オリジナルブランドなど、
選び抜かれたセンスの良い商品が、数多く並んでいる。
カフェの抹茶もお勧めだ。
◆
先般のビル倒壊で被災した台南の人々に、深い哀悼の意を表すとともに、
日本の方々にこの、「古く、新しい」場所を是非見に来ていただきたい。
日本、台湾の友情と、災難を「絆」で結んでゆけるであろう未来を感じる、
遥か南西に浮かぶ、この島のデパートに。
81年の時を超え、2014年開業時の映像。
台南初のエレベーターは林百貨店だった。
エントランス。丸に「林」のマーク。
「確か子供の頃遊んだ老舗デパートの屋上には神社があったな・・」と、遠い国の屋上で。
HAYASHI百貨店オリジナルのステテコ。古き良き日本の香り。肌触りが良い。