2018.06.21
JUKEBOXは回る「旅」と「音」。フランスの旅路にて。
旅先で、ふと頭の中に流れるメロディがある。
それは大体、「歌詞」とは関係のない、純粋な「音」のイメージとして無意識に再生される。
中には生活環境において度々聴いたものがそのまま条件反射的に記憶にリンクしているものもある。例えば新幹線が駅に着く際に流れるTOKIOの「AMBITIOUS JAPAN! 」という曲のフレーズ。新幹線出張の多いサラリーマンなら100%「あ、あの曲だ。」と東京〜新大阪間辺りの情景を思い起こすのではないだろうか。昔、毎月名古屋に出張に行っていた私はラジオでふとこの曲を耳にすると、あの白と青の車体が新横浜駅に入線する様子や、恐ろしいスピードで流れ続ける景色。そして名古屋地下で食べる「味噌煮込みうどん」が、ふと脳裏に浮んでくるのだ。
同様に、クアラルンプールと東京(成田・羽田)の往来でAirasia機の搭乗・降機時に流れる(今はもう流れていないかな?)妙に耳に残る曲があって、いつしか「アジアの旅」全般「飛行機搭乗テーマソング」として刷り込まれているのが「crayon pop」という、元気な女の子が歌ういかにもK-POP歌謡調ダンスミュージック「dancing queen」だ(ABBAのリメイクではない)。エアアジアはマレーシアの航空会社だから、当初はマレーシアの女の子のアイドルグループか何かの曲だろうと思い疑わなかった。ボディーコンシャスなあの赤いユニフォームを着たエアアジアのCAさんが、髪を振り乱しながらセクシーに踊っている姿を、私はこの歌声から勝手にイメージしていた。ところが、ある日ふとしたきっかけで音源を頼りにこの曲を調べて見たら、これが全くそのイメージとかけ離れた韓国の若い(と言っても本当に子供みたいに若い)女の子グループが学生服にジャージ?を着ながら唄っているというイメージのギャップにちょっとショックを受ける。確かに英語×マレー語のMIXにしては、言葉に違和感が有るし、なるほどよくよく聴けば、私がごくわずかに知っている韓国語の単語が、英語と共に聞き取れるのだ。
「歌詞」はもちろんだが、やはり「音」は、本当にイメージに結びつきやすい。だから勝手に曲にイメージを当て込んで「こんなことを歌ってるのかもな」と、往々にして自分の世界観を作ってしまう。
洋楽で結構ありがちなのは、ハッピーなメロディだな。という印象で歌詞対訳を調べて身たら「本当にサイテー。あんたなんたに出会わなきゃよかった。」みたいな内容で「えぇ・・・」と思ってちょっとがっかりしたりする。逆に邦楽で言うと、(相当古い曲で恐縮だが)山崎ハコの「呪い」なんて、きっと日本語の分からない人が聴いたら「女の子が、多少メランコリックに退屈な日常を歌っている曲かな?」みたいな印象を持つのではないだろうか。ところが実際の歌詞は藁人形に怨念を込めてひたすらコンコン釘を打っているという・・・邦楽史上、稀に見る暗い曲という。
ちなみに前出の「Dancing Queen」というエアアジア機内でかかる曲の歌詞は未だ持って全く知らないのだけど、もはや知らないままの方が良いと思っている。もう私の中でこの曲は、
♪「さあ出発さ。タラップを降りた次の瞬間、日常をぶち破れ!歌うのよ!踊るのよ!そして辿り着くのよ!マイ・デスティネーション!」
であり、PVはエアバスA330の翼の上でセクシーな赤い制服を纏った化粧の濃い美人CAが唄い踊り、その後ろではマッチョな機長と副操縦士がリモワのトランクを振り回しながら踊っているという塩梅。
本当に唄っているcrayon popの皆さんには本当に申し訳ないけど。
私、大好きですよ。この曲。
★
さて、それで、フランスに来た時に改めて思った。夜のパリ、壮麗な歴史的建築物を見た感動の中で流れて来た曲は、相当ベタだけれど、
①サラ・ブライトマンとアンドレア・ボッチェリ 「TIME TO SAY GOODBYE」。
ロンドンでウェストミンスター宮殿を見た時もこの曲だった。きっと、私より欧州慣れしている人はもっと違う曲だと思うけれど、♪ダッダダダ、ダッダダダ、ダッダダダダダダダダダ♪というリズム(よく聴くと水戸黄門のテーマも同じリズムだよな)が、西洋の古い洋館やら、オペラ、ネオゴシックだったりルネサンス様式だったりの建造物とイメージが私の中で強くリンクしているのだろう。ちなみに、西洋絵画が並ぶような「美術館」に入ると、これがフォーレの「パヴァーヌ」という曲になる。古くて大きな「教会」に入ると「グレゴリオ聖歌」となる。
そんなことを考えながらフランスを旅していて浮かんできた曲を旅先でメモしてきた。
★
②パリで友人たちが呑んでいる店に合流すべく、慣れない夕闇の街を歩き、趣ある地下階段を降り、古い都会のメトロに乗って街を彷徨う時は、JEMというアーティストの「It’s amazing」。
そんなに有名な曲ではないし、何故この曲を知ったのかそもそも記憶が無いのだけれど、きっと、そのタイミングで何か、異国の街を歩くような印象的な出来事があったり映画を見たりしていたのかもしれない。こういう少しミステリアスで暗い曲、結構好きだ。
③そして、パリからシャンパーニュに向かう、長閑な農業国・フランスの、まるで油絵を切り取ったみたいな美しい牧歌的風景。車の車窓を左から右にゆっくり流れるのを見ながら頭の中に流れてきたのが、
キナ・グラニス 「In your arms」。
この曲のサビの所が特に好きで、遠い糸杉の木々や、時折見える牛や羊が牧草を食む風景。ソフトな歌声が、牧歌的な初夏の景色に抜群にマッチするのだけれど、そういう夏の訪れや牧草の香りを歌った曲では全くない所がまたおもしろい。
④つづいて、ボルドーの南、ルピアックという長閑な街。サンドリーヌさんのワイナリーの食卓で、本当に美味しくて郷土愛溢れる食事を、ワインとともに御馳走になった時にふと流れはじめた曲。パン、バター、ハム、ワイン、コットンの布。温もりのある木のテーブルと、キッチン。なんだかそんな感じしませんか。歌詞とはこれも随分違うみたいなんだけど。
ヤエルナイム、「New soul」
何故、音楽は旅に寄り添い、時に気持ちを盛り上げ、時に落ち着かせてくれるのか。頼んでもいないのに、頭の中のジュークボックスが回り、針がレコードに落とされる。きっと人間の頭の中には「小人のラジオDJ」みたいなのが住んでいて、彼は、人間の言葉はわからないけれど、きっと旅のエモーショナルな部分を盛り上げようとしてくれたり、時に感傷に寄り添ってくれているような曲を、いつもレコード棚から引っ張り出して、選曲してくれているのかもしれない。
フランスの、いつもより少し長い旅路は、ふとそんなことを思わせた。
追伸
帰国して旅の写真を見ていたら、浮かんできたのが何故か、アリアナグランデのNo tears left to cry.
ちょうど東京でもヘビーローテーションされてた頃だ。多分、パリからシャンパーニュに向かう車のラジオでかかってたからでしょう。不思議なものだ。。